芸能人への階段
前回の続き、完結編です。Kちゃんの「あのコ、だれ?」が聞こえたとき、A氏の胸は思わず、高鳴りました。
一瞬、Kちゃんと目が合ったそのとき、思ったのは。
(えっ、ひょっとしてオレが?オレがニューメンバー?)
ホアホアホア~ン。早くも舞台でいきいきとコントを演じる、自分のイメージ。女性の歓声。もうベンツに乗っている、にやけたA氏の横顔。
ところが、A氏の原稿にダメ出しをした先輩があわてて手を振ります。
「大将(Kちゃん)、あれはダメですよ、作家見習なんですから」
(えっ?! ちょっと待ってくれ先輩、なんで断るんだ?!オレはもう作家なんかどうでもいいよ!Kちゃんバンドに入れてもらえるなら、すぐにでもやるよ!
あんただって、さっき、作家やめて田舎帰れって言ったばかりじゃないか!
もうこんな下積生活をやめて、これからはタレント活動に専念するんだよ!先輩、考えなおしてくれ~!オレのこの残念そうな顔を見ろ~!)
目で訴えるA氏。
「う~ん……そうかぁ」
K氏は残念そうに背中を向けると、舞台に去っていきました。まだ未練を断ち切れないA氏。Kちゃんの背中に執念の念を送ります。
(待ってくれ、Kちゃん!先輩、もう一度頼んでくれ!オレの才能の芽をあんたはここで摘んでしまうのか!待って~!Kちゃ~ん!)
その場に残った放送作家の先輩達が苦笑しながら話しています。
「大将、またスカウトしようとするんだから……」
あきらめきれないA氏。心でずっと叫びました。
(オレをKちゃんバンドに入れてくれー!今日から大将と呼ばせてくれよ~!待って~!Kちゃ~ん!)
K氏の背中はドンドン遠くなっていきました。
人生のほんのいっとき訪れた芸能人への階段。A氏は登ることすらできませんでした。